遠まわりする雛


氷菓から連なる古典部シリーズ4冊目。これは最近存在を知ったので未読でした。短編集ですが、これはとても良く出来てます。古典部の一年間。一年生春から翌春までの季節の移ろいを、ほんのりとした人間関係の移ろいに合わせて渋く描いてます。大きな三つの事件(これ以前の既刊3冊)の脇の細かい事件群の話。内容としては以下7編。
・やるべきことなら手短に
主人公、折木のモットーである『やらなくていいことはやらない、やるべきことなら手短に』の取捨選択が、ヒロインの千反田えるによって崩れ始めた頃の事件。主人公はあきらかに、やらなくていいことをやってます。ひとえにそれは千反田との距離がまだまだ遠いから。一言の否定が言えなくて、回りくどいやり方で矛先を逸らしてしまった。青春ミステリーの一話目としてどうなの、というほどグレーなエピソード。心象もトリックも何もかも。でもらしいといえばらしい。
・大罪を犯す
とある数学の授業中に、とある理由で怒ることになった千反田。しかし理由がいまひとつ本人のなかでははっきりしない。状況としては怒るに値する状況であったが、そこまで怒るべきことだったのだろうか。怒りの理由は何なのか、と千反田は主人公に相談する。相変わらず無茶苦茶な依頼。トリックは学生らしいもので、誰もがそんなことも有った、有る、と微笑ましく感じるオチだが、千反田の怒りの理由は最後まではっきりしないが、はっきりしない故に犯した大罪なのかも。
・正体見たり
古典部メンバーで温泉宿へ一泊旅行。男女二人ずつのメンバーだが予想されるロマンスはあまりない。あるのは謎しかなく、温泉宿の娘たち姉妹とユーレイの関係に迫るはめになる。ユーレイの正体ははっきりすれば不安は除かれるが、正体を明かさぬ方が良い……というかマシというのもある。結局謎を解いてもどうにもならない系の話で、この作者さんらしい。普段はそういう作風は自重してるっぽいが。
・心あたりのある者は
幕間的だけど、純粋に推理を追える作品。主人公と千反田が、古典部部室で延々推理をしているだけという、まったりとした話。ふたりともお互いにお互いのくせが見えてきて、その癖に逆らわないようにかつ入り込みすぎないようにしていたら、無駄に推理に没頭してしまった感じ。息抜き的な話。
・あきましておめでとう
正月早々密室に閉じ込められる折木と千反田。知恵を絞り外にいる友人らに状況を伝え、なんとか脱出を試みます。結果としてはまあ表題しかないのだけど、スリリングで楽しめた。日常系にはないものです。吊橋効果を期待した人はあいにく。
・手作りチョコレート事件
バレンタインデーの話。イベント効果を期待するとあいにく。ここまでくるとはっきりしない事がどうしても許せなく嫌い、という千反田の性質がよくわかる。それとは反対に周囲の人間たちははっきりしない状況でもがき気味ではある。推理すればするほど真実が遠のいていくいやな手ごたえ、そんな話。
遠まわりする雛
鬱屈としたチョコレート事件に比べてからりと明るい話。冒頭の『やるべきことなら手短に』では千反田の謎への疑問を逸らしたが、一年後の当作では果たして? 
以上7編。こんなに書くつもりは無かったんですけどね。