山百合会のナンバー2は誰? その2

 志摩子さんとお茶を飲みながらまったりとお話していた。彼女とは中等部の頃に一度同じクラスだったことがあるが、こうして差し向かいで話す日が来るとは当時想像もしなかった。話題は妹たちのことだった。
「そろそろじゃない。妹にしたい子が出来ました、って言われるの」
乃梨子のこと? スールの話はまだ全くないわね……」
「その気になれば幾らでもどうにか出来そうな気がするけどね、彼女は。でもあまり特別親しい下級生の話とかは聞かないね」
「どちらかといえば、そういうのを避けてる風に見えるわ。話題そのものも」
「話してみたら?」
「考えてはいるわ。でも、あまり話したがらないのよね。スールの話も、実の妹さんの話も」
「妹がいるんだ?」
「一つ年下の子らしいの。リリアンに入学したなら言うと思うから、違う学校かしらね」
 そんなことを話しているうちに会話も一段落した。しなくてはいけない話は無いのだからいつかは途切れるものだ。志摩子さんはお茶を楚々とすすっている。それを見て、由乃は質問してみることにした。
「で、生徒会のナンバー2にはなれそう?」
「ぶっ!」
 志摩子さんがお茶を噴き出した。水芸じみた見事な噴出だった。げほげほと咳き込みながらテーブルの上をふきんで綺麗にすると、志摩子さんはテーブルの上に置いてあった鞄(かろうじて水害をまぬがれていた)を胸元に引き寄せるように抱え、こちらをじろりと睨んだ。
「……見たのね」
「見た」
「人の鞄を勝手に開けるのって、いけないことだと思うわ」
「はーい。今後気をつけまーす」
 と、素直にうなすいておく。
「私も考えたことがないわけじゃないけど、志摩子さんほど明確に考えなかった。ナンバー1とか2とかそういう考え方を無意識に避けてたのかもね」
「じゃあ何をどんな風に考えていたの?」
 こういう突っ込み方は怒っている時の志摩子さん特有のものだ。だが、どんどん突っ込んだほうが良い。疑問に思ったことはどんどん聞いたほうが良い、と由乃は思っている。だから怒っている時の彼女は割りと好きだ。
 で、志摩子さんの質問の件だが。リーダーである祐巳さんがリーダーらしく振る舞えるような空気を作っていく、というのを心がけていく。リーダーからの発信を受け止め、リーダーへと発信していく。リーダーであることをないがしろにしたりしなければ彼女は答えてくれる。その点に気をつければ祐巳さんはきっと『大丈夫』のはずだ。逆にそれをおろそかにするとヤバイ、というようなことを伝えた。
 対して志摩子さんは、一定の理解は示してくれたようだが、あまり納得のいっている感じではなかった。
「……少し、変わったわね、由乃さん。菜々ちゃんを妹にしてから少し、変わったみたい」
「そうかな?」
「私の知っている由乃さんは、そんな曖昧模糊としたことを言う人ではなかったわ。今由乃さんが言ったことはたぶん『間違っていない』。でも由乃さんは昔、『正しいこと』をずばっと指摘してくれたはず」
 志摩子さんはナンバー2であることを目指し、そして由乃は空気を大事にしようとした。確かにこれでは、我ながらあべこべだ。志摩子さんこそ、曖昧模糊としたことを提示することが多かったものだ。だとすると藤堂志摩子という人物も少し変わったということになる。同じ立場でありながら年上の二人──令ちゃんと祥子さまだが、彼女たちと肩を並べていた当時と、立場も年も同じ人間たちと肩を並べている今とでは、考え方ががらりと異なるのかも知れない。それはきっと、多分良いことだ。