炬燵シリーズ【case3:山百合会のナンバー2は誰? その1】

祐巳三年生編と称して書いてたSSなんですけど、冒頭の炬燵シーンがそろそろ足かせになってきたのでその辺ばっさりしつつ、ブログの方で気楽に書いていきます。もともと肩の力の抜けた4コマ的なものですし。というわけで、これまでのあらすじ!
──福沢祐巳は三年生となり山百合会は新体制へと移行した。新学期早々に薔薇の館の階段が壊れるというアクシデントを乗り切った山百合会は、リーダーとして祐巳を立てることで更なる磐石を求めた。多少の紆余曲折はあったものの、山百合会はリーダー祐巳のもと順調に運営されているように見えたが……?

【case3:山百合会のナンバー2は誰?】

 福沢祐巳山百合会のリーダーに選出されて一ヶ月ほど経過した。選出直後にメンバー間の多少のいざこざはあったものの、なんとか軌道に乗ったかな? と、祐巳と同じく三年生の島津由乃は考える。トラブルなど無いのが一番だが、無さ過ぎても正直つまらない。余程面倒なことでない限りどんと来いだ。ただまあ、本質的な問題として、リーダーの責務というのはなかなか骨が折れるものだと思う。しかしそこは率先してフォローして”リーダーがリーダーとして振る舞いやすい空気作り”を心がけていくのが大事だろう。うん。
 ところで由乃は今、薔薇の館の会議室に一人いた。ついさっきまで同じく三年生の藤堂志摩子さんもいたのだが、委員会活動でちょっとやることがある、と席を外している。後輩や妹もまだ現れる気配がない。端的に言ってヒマだった。
「何かやることないかな……おっ?」
 テーブルの上に志摩子さんの鞄が置いてある。そこまではいい。鞄の隙間から教科書らしきものが覗いているが、その中に教科書らしからぬ装丁の本が忍ばせてあるのがちらりと見えた。
 あの真面目っ子の志摩子さんが、教科書以外に学校に持ち込む書籍。気にならないと言えば嘘になる。というか、気になる以外の選択肢は全部嘘だ。
 決断に悩みが無かったわけではない。思い立ったら即実行。いつもいけいけ青信号。悩みも迷いも無い女。良くも悪くもそんな風に揶揄されているのを由乃自身知ってはいる。公然と反論したりはしないが、それは少し違う。悩みも迷いも人並みにある。しかし、悩み終えてから行動に至るまでが自分でも驚くほど早いのだ。悩んだり迷ったりしている時間も人よりきっと早く──うん? それはつまり人より悩まないということか?
「まあ何でもいいや。そいじゃ、失礼しまーす」
 テーブルの上の鞄を丁寧に引き寄せて手早く鞄を開ける。隠すように教科書の間に忍ばせてある目当ての書籍をさっと抜き出した。単行本サイズの本であり、表紙にはなにやらアニメ調のキャラクターが描かれている。由乃はとりあえずタイトルを注視した。そこにはこうあった。

 【もし生徒会のナンバー2を目指す女子が
       ドラッカーの『マネジメント』を読んだら】 と。

「……うわぁ」
 由乃は思わず呟いた。そして「うわぁ」と思った。それ以外に無かった。これまでの人生でのどれよりも勝る「うわぁ」だった。掛け値なしの「うわぁ」だった。
 由乃は中身を見ずに再び鞄の中に仕舞った。以前とだいたい同じ場所に鞄を戻しておく。中身など見ずともタイトルだけで、およそあらゆる全てが伝わってきたように感じた。気持ちは分からないでもない。しかし志摩子さんの気持ちは、危うすぎる程まっすぐな気がした。欲望まっしぐらというか何と言うか。
 それにしてもよくもまあ、ニーズにぴったりの本があったものだ。世の中不景気だから細やかなニーズに答えていかないと業界の生存競争を生き抜けないのかも知れない。そんなことを考えていると階段を登る音が聞こえてきた。ほどなくして会議室へのビスケット型の扉が開く。そこから顔をのぞかせたのはもちろん志摩子さんだ。
「お待たせ。今日は誰も来ないのね。どうしようかしら?」
「まあ喋ってればいいんじゃね?」
「そうね」
 志摩子さんはそう答えると、お茶の準備を始めた。手伝おうとすると、由乃さんはのんびりと座っててと笑顔で辞退された。さて何の話をしようかな?